宇宙の奇人変人
近頃話題になった動画。現在の再生数は150万弱。
オリジナルはデビッド・ボウイの初期のヒット曲で、歌詞の内容は地球から月に向かって飛んでいくトム少佐と地上管制との間で交わされる通信、そしてトム少佐の独り言から構成。
途中トラブルで通信も不能になり、「自分にできることは何もない」” there's nothing I can do”と静かにつぶやいて宇宙の闇に取り残されるトム少佐。ロック的にはここで「絶望のシャウト」もありかもだけれど、寂しげにつぶやくのがツボなのだろう。たぶん。
Space Oddity Lyrics - David Bowie
http://www.lyricsfreak.com/d/david+bowie/space+oddity_20036711.html
今回の歌詞はそのような不吉なものではなくて任務完了の替え歌。「やり残したことは何もない」” there's nothing left to do”と言って地上に戻るハッピーエンド。この歌詞のコントラストがまた魅力なのではないかと思ったのだけれども、どうだろう?
さて、オリジナルの方が発表されたのは1969年で、アポロ11号がはじめて月面着陸した年。「人類にはなんでもできる」みたいな雰囲気があったのかも知れない。だからトム少佐に「自分にできることは何もない」と言わせる意味があったのかもしれない。カウンターカルチャーの時代でもある。
米国では1960年代中頃からロックの消費者層が広がり、白人中流家庭出身の大学生が中心になり、ロックのアート化と産業化が進む。消費者の購買力の拡大といった背景もあってか、シングル中心からアルバム重視へ。トータルアルバムなども増えてくる。既成のロックの殻を打ち破るようなさまざまなアイデアが試され、それがまたよく売れた。
英国ではビートルズの米国での大成功で、ロックが階級を超えて「市民権」を得る。「サージェント・ペパーズ・・・」はロックのアート化の象徴のように言われる一方、ビートルズはロック・ビジネスで巨額の広告宣伝費を投じて成功した最初の例と言われることもある。おそらく大衆芸能の大きな需要と供給サイドである産業は切り離せないものなのだろう。
そんな時代背景の曲、でいいのかな?
アレンジ面では当時のハイテク楽器、メロトロンでスペースサウンドを演出している。メロトロンの演奏はカウントダウンの後で(つまり宇宙に出てから)開始する。でも何度もリリースしているようなので、最初の1969年バージョンにメロトロンはないかも。
DAVID BOWIE Space Oddity + Lyrics (The Best ...
ちなみに当時のスペースサウンドの作り手としてはGongというバンドが有名。
Fohat digs holes in space
http://www.youtube.com/watch?v=Pk1jsxcXWqE
トム少佐には後日談がある。1980年にリリースした曲ではトム少佐は宇宙飛行士ではなく、単なる薬物中毒患者だったとしている。PVではピエロ姿のデビッド・ボウイ。曲のタイトル、Ashes To Ashes(灰は灰に)は、イングランド国教会で使われる葬儀の際のフレーズらしい。こうしてトム少佐は成仏(?)する。
David Bowie - Ashes To Ashes (HQ 1080p HD ...
1990年代の曲にもトム少佐が出てくるそうなのだけど、自分は知らない。すいません。