Les Rêveries du promeneur solitaire

最初のハッタリが肝心

1980年発表のピーター・ガブリエルの3枚目のアルバム、A面の1曲目のイントロを聴いてみよう。


Peter Gabriel - Intruder - YouTube

このドラムの音が80年代に世界的なブームになった「ゲートリバーブ」(ゲートエコー)の始まり、とされている。80年代の「ドラムの音はなんであんなに不自然で耳障りな音なんだ?」と言われる源(元凶?)はこれ。

ゲストでドラムを叩くことになったジェネシス時代の元同僚フィル・コリンズが、ピーターからこのアルバムではシンバルやハイハットなどの「金物」を一切使うなと指示を受けて、困ってエンジニアの人と試行錯誤の上で考案したなんて言われている。

シンバルを使わないことに関してはYMOの方が先だけれど、何か影響があったのだろうか?ただし、目的はYMOとは異なってタイトで機械的な音を表すことではなく、ワイルドなビートを表現することにある。

 

 

では続いて1982年発表のピーター・ガブリエルの4枚目。A面の1曲目のイントロを聴いてみよう。


Peter gabriel The rhythm of the heat - YouTube

奇妙なパーカッシブな音からフェードイン。この音は初期のサンプラー(サンプリング・マシン)、フェアライトCMIで作った音。ピーターはフェアライトCMIが気に入って英国の輸入販売代理店を設立、多くのミュージシャンに売ったらしい。フェアライトCMIといえばトレヴァー・ホーンの「オーケストラ・ヒット」が一世を風靡したのだけれど、トレヴァーはピーターの代理店からCMIを購入したとのこと。

 

フェアライトの歩み 誕生から現在、そして明日へ (フェアライトジャパン)

http://www.fairlight.co.jp/intro5-3.html

 

フェアライトCMIで遊ぶピーターのドキュメンタリー

http://www.youtube.com/watch?v=ON8lVgJxMQA

 

なお、このアルバムでも「金物」のパーカッションは使っていない。

 

ちなみにトレヴァー・ホーンの「オーケストラ・ヒット」の代表曲として、最初ではないが有名ドコロでは彼がプロデュースしたYesのOwner Of a Lonely Heart(1983年)。

http://www.youtube.com/watch?v=2vV_L7OQtU0

ジャン!という音がそれ。トレヴァーは、「ラジオスターの悲劇」で有名なThe Bugglesでデビューした後、ちょっとだけの間、Yesのボーカリストだったことがある。その後、プロデューサーとして成功した。

 

さて、このころのピーター・ガブエリエルは英国本国や欧州ではそれなりに知られた存在だったろうと思うけれども、ジェネシス時代も含めて米国や日本ではオタク向けだったと思う。彼が米国の巨大市場で成功するのは次の5枚目のアルバム(1986年)。

アルバムのタイトルは1枚目から4枚目まですべてPeter Gabrielだったのだが、初めて”So”というタイトルが付けられた。これも米国の販売業者からの要求と言われていたりする模様(本当のところは自分は知らない)。

従来からのファンはカルト教祖の世俗化を嘆いた。「俺達のピーターがフィル・コリンズみたいに堕落しちまった・・・」。実際、当時のメディアは元同僚で先にポップスターに伸し上がっていたフィル・コリンズと比較してライバルみたいな取り上げ方をしていた。

では、この”So”のA面の1曲目のイントロ。ピーターは「今までとは違う」というメッセージを従来のファンに送っているように自分には思える。というのは、既に書いたとおり3枚目、4枚目では金物のパーカッション類を排除した。しかし、この5枚目のA[面1曲目のイントロはその金物から始まる。ちょっと偶然には思えない。


Peter Gabriel - Red Rain - YouTube

 

ハイハット・ワークに定評があるスチュワート・コープランド(The Policeなど)が演奏。スコールのように雨がぽつりぽつりと降り始め、一気に土砂降りになる感じ?ドドドドと太鼓が入ってくる。個人的に好きな部分。

 

このようなA面の1曲目のイントロでアルバムの宣言を行うというようなことは、たぶん他の人も結構やっていることなのではないか。例えば、キング・クリムゾンのデビュー・アルバムは、奇妙な音から始まる。意味不明なのだけれど、このアルバムの主要なテーマの一つ、メロトロン・サウンドである。

http://www.youtube.com/watch?v=ujIbpt-CCTY