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Eureka!/Positive Reaction!

Rêveries du promeneur solitaire

ファースト&スロー ダニエル・カーネマン

ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?

ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?

ファスト&スロー (下)

ファスト&スロー (下)

(お願い)まともな読書感想文をご希望の方はどうか他所さまへ。

心理学者で行動経済学の主な創始者の一人、特にプロスペクト理論の功績で2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンが2011年10月に出版した”Thinking Fast and Slow”という著作の日本語版

カーネマンにとって初めての一般向けの本とのことで、米国では好評を博した(よく売れた)らしい。ウィキペディアによれば、2007年に名誉教授に就任したのだそうだから、第一線を退き、ある程度余裕も出て、自由なことが言えるようになったということだろうか(知らんけど)。

日本語版は2012年11月に出版され、自分は昨年の早いうちに購入してはいたものの、多読な方ではないし、他に読んでいるものもあったりしてようやく読んだ。


冒頭に「エイモス・トヴェルスキーを偲んで」と記されている。ノーベル賞を受賞するには、受賞するに値する功績を残すことだけでは十分ではなく、受賞する順番が回ってくるまで生き延びるという条件もクリアする必要がある。トヴェルスキーは後者の条件が満たせなかった人とされる。つまり、生きていればカーネマンと共同受賞したはずだったと。ちなみに「人間この信じやすきもの」の著者、トーマス・ギロビッチはトヴェルスキーのお弟子さんなのだそうだ。
人間この信じやすきもの―迷信・誤信はどうして生まれるか (認知科学選書)

ラシーム・ニコラス・タレブの2007年のベストセラー「ブラック・スワン」にも何度も触れられている。本書の第3部を書くにあたって影響を受けたのだそうだ。二人とも不確実なものの取扱いについて一家言ある人たちではあるけれど、にしてもレバノン出身とイスラエル出身か。なんか考えちゃう。
ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質
ブラック・スワン[下]―不確実性とリスクの本質

タイトルの「ファースト&スロー」は、認知心理学の二重過程理論を指した言葉で、つまり、直感的で素早い思考を司る「システム1」、熟慮型でゆっくりとした思考である「システム2」を表している。システム1は無意識のうちにオートマチックに作動し、だいたいの場合にうまくゆくものの、気まぐれでしばしば勘違いをする。システム2はシステム1をモニタリングする役割があるが、作動するのにいちいち負荷がかかる怠け者である。

この二重過程理論はカーネマンのオリジナルではなく、認知心理学の本ではわりとおなじみの考え方で、クリティカル・シンキング関連の本では、「少なくとも重要なことは立ち止まってシステム2を使ってよく考えよう」といった教訓を述べられるのが一つのパターンといっていいと思う。

しかし、カーネマンはその手のやり方にはどうも悲観的なようで、カーネマン自身、他人の過ちには気づきやすくなったりはしたものの、自分のこととなるとほとんど成長しなかったと(笑)。「せめて重要な意思決定をする時だけでも」と言ったところで、そのような真剣な場面ではシステム2が横からアドバイスしたところで不愉快なだけだと。

まぁ確かにそんなもんなのかもしれない。重要なことを決めるときは、あまり複雑なことを考えず「エイヤー!」とやるもので、いろいろ考えだしたりすると決められなくなって判断を先延ばしにしたりする。先延ばしにできない場合には、最終的にやはり「エイヤー!」とやることになる。自分もこの手の本をいくら読んでも、あまり賢くなった気がしない。相変わらずアホな失敗ばかり繰り返している感じがする。そんなもんか。もんくあっか。

一方で、カーネマンは、チェックリストのようなツールを用いることについては、ある程度有効と考えているようだ。自分に見えてるものなんて限定的だと頭で理解していたとしても、直感的に「自分に見えているものが全て」と感じとってしまったりする。「自分の目で見たものしか信じない」という態度は、一見慎重そうで時にやばかったりする(文脈にもよると思うけれど)。自分の視点だけに依存せず、外部の視点を取り入れよということかと思う。

カーネマンとトヴェルスキーの主な功績である、ヒューリスティックとバイアス、それからプロスペクト理論についても、わりと平易でわりと丁寧な解説がなされている。印象的だったのは、プロスペクト理論の限界についても書かれていたこと。一般向けのもので限界について書かれている本はたぶんあまりないと思う。

カーネマンはもっとうまく説明できるモデルが他にありうることを指摘したうえで、自分たちの理論が広く認められたのはシンプルで利便性が優れていたためとし、「運が良かった」とまで述べている。このじいさんが妙に謙虚なのは、長いことヒトの認知的錯覚を研究し、伝統的な経済学の人間観に対して異議を唱えてきたのとたぶん関係しているのだろう。

客観的な表現でヒトの認知バイアスの話題をすると、なんだか一般人のアホらしさを評論家っぽく論じているみたいで「上から目線」のように感じられることもあるのだけれど、カーネマンとトヴェルスキーは、自分たちの欠点にまず目を当ててそれが一般人にも共通したものかどうかを検証していったみたいだ。まずは自分がマヌケであることを自覚することからスタートしたのだ。汝を知れ!汝を!(やっぱりちょっと偉そうな・・・)

本日のBGM

I am -You are- We are Crazy!

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