Eureka!/Positive Reaction!

Rêveries du promeneur solitaire

ポジティビズム!「論より証拠」論 その6

モノアミン仮説-抗うつ剤の薬理学とうつ病の病理学

通俗心理学とfMRI占い

精神分析がそうだったようにヒトのココロを動かすストーリーは波紋のように広まりやすい。だって面白いんだもん。

さほど害がないものなら、いちいち目くじらを立てるのは無粋だし、だいいちキリがない...というより、自分もそれなりに面白がっている一人であることを棚に上げてしまうのも、なんとなく締まりが悪いような気もする。

心理学っぽいココロの占いもとても面白い。ウィキペディアによれば通俗心理学っていうのだそう。近年は似たような存在として芸脳人の先生方によるfMRI占いが隆盛している。通俗心理学よりもさらに科学テイストの効いた大がかりでオゴソカな魅力を持っている。

ホントーの脳科学

けれども、学問としての脳科学や神経科学はわりと微妙で地味な研究をやっているようだ。発展途上の学問で、ストーリーを解明するために欲張って深読みしようと力めば、いとも簡単に論理的に跳躍してナナメウエに飛んでいくオソレがある。

生きた人間の脳の活動を観察するのは、技術的にも倫理的にも制約が小さくない。生きた人間の脳ミソをカチ割って直接動きを覗くわけにもいかないから、間接的な証拠などを集めながら限られた手段で観察して、これらを手掛かりにあれやこれやと少しずつ探っていって小さな証拠を積み重ねる。気が遠くなる。待つしかない。

認知心理学など、他の分野である程度確立した仮説について、それを手掛かりにfMRIで確認したらこんな部位が活性化してました、みたいな研究も見かける。

たとえば最近の報道ではこんなのがあった。

■報酬選択脳どう動く? 今すぐ1万円か1週間後に1万2千円か : 地域 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE
http://www.yomiuri.co.jp/osaka/feature/CO004347/20150831-OYTAT50079.html

神経経済学は神経科学の面からヒトの経済行動を説明しようとする学問で、行動経済学と神経科学を結び付けるようなものが多い。

行動経済学はヒトの経済行動を認知心理学的な枠組みをベースに説明するもの。神経経済学で認知心理学行動経済学の成果を応用・援用しているのを見かけることがある。

この記事に書いてある時間割引率という考え方自体は金融理論の基礎だ。同じものを貰うのだとすれば、すぐに手に入れる方が金利分お得である。時機が遠くなるほど危機(不確実性)も増える。将来に手に入れるものは、それをいますぐに貰える場合の価値に対して、不確実性を反映した金利に時間の大きさを掛け合わせた係数(ディスカウント・ファクターとか複利現価率という)を使って割り引くことになる。

ただ、行動経済学の研究で、ヒトの認知の傾向はこうした金融理論に基づいた合理的な割引率よりも高めであることが知られている、というか、はるか昔から朝三暮四という言葉がある。朝三暮四の猿と同様にヒトは傾向として利食いを急ぐし、多少のチャンスを捨てても手堅く利益確定したがる*1

うえの報道では、セロトニンの量と時間割引率に関する動物実験の結果も組み合わせて、ヒトに応用して、アミノ酸セロトニンの原料)の投与量別に行動の変化とfMRIの変化を観察して評価した、というものらしい。

いろんな仮説を組み合わせたり応用したりしていて、なんだか気が遠くなってくる。掴んでいるのは雲だったりしないのだろうか?

それなりの間接的な証拠をそろえたり、同様の研究を積み重ねたりしたうえで言っているのかもしれないのだけれど、この報道だけ見ると、なかなか道は険しそうな感じがしてしまう。どうなんだろう?待つしかないか。

薬理学のストーリー

薬理学という学問は、薬剤が体に対してなぜどのように作用するのかというカラクリを解明する学問。これが分かるといろいろと応用範囲が広がる。

風邪薬のCMとかには、「○○○○配合!」みたいな、長ったらしくて小難しい化合物を混入させていて、それが患部にうまい具合に作用するんで、だからとっても効いてスッキリしますっ!みたいなのがある。

ほんの短いCMの間でもそんな作用機序のストーリーを展開されると、なんだか説得されてしまう。男の子はかっこいい新兵器に弱いのだ。女の子のことはあまり分からないが、たぶん似たり寄ったりではないか。

でも、薬剤に効き目があるかどうかは薬理学のカラクリ論では分からない。仮説は立てられても実際に試して効果を確認するまでなんとも言い切れない。待つしかないか。なにを?

うつ病の病理学と薬理学

うつ病の病理を説明するストーリーにモノアミン仮説という伝統的な仮説がある。

神経細胞は細長くて両端は樹状突起というグロい形状をしている。神経細胞はこの樹状突起を介して他の細胞と情報のやり取りを行うのだが、樹状突起同士のあいだにシナプスという微妙なスキマがあって、そのスキマでモノアミンという神経伝達物質を受け渡すことで行われる。

モノアミンにはいくつか種類があって、セロトニンもその一つ。ほかにはノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミンなどがある。

モノアミン仮説は、この神経伝達物質が不足することでうつ病が起こっているという仮説だ。

どのような経緯でモノアミン仮説が主張されたのかというと、まずうつ病患者に抗うつ剤が効くという実証データがあって、その抗うつ剤が効くカラクリ(作用機序)に関する薬理学の研究成果を受けて、うつ病発症のカラクリ(病理)を推定した、という順番だった。

  1. ある化合物がうつ病に効くことが分かった(実証)。
  2. その化合物にはセロトニンを増やす作用があることがわかった(薬理学)。
  3. だから、うつ病は脳内のセロトニンの不足によって起こっている。たぶん(病理学)。

だいたいこんな具合だと思う。

ちなみに抗うつ剤は1950年代に偶然発見されたもの。もともと結核の薬として結核患者に投与したら、なんだかハッピーそうみたいな、きっかけはそんな感じなのだそうだ。

その後、モノアミン仮説のモデルをベースに新しい薬剤が開発されて、その効果が実証された。これはモノアミン仮説を支持する証拠の一つにはなる。ただし、絶対的なものではない。

生きた人間の脳ミソの動きを知ることはとても難しい。それにモノアミン仮説は、うつ病抗うつ剤の効き具合をうまく説明しきれない部分があって、そのうちひっくり返る可能性も十分にありそう、というか、教科書どおりの素朴なモデルとしては、すでにひっくり返っていると言っていいようだ。

想定したカラクリが間違っていたとしても、抗うつ剤が効くという事実には基本的には影響しない。現象が消えれば仮説は消える。けれど仮説が消えても現象は消えない。現象が本体だから。

もっとも抗うつ剤ってそんなに万能なわけでもない、というか、万能にはほど遠いのだけれども。すごくよく効くという人は、いるにはいるので見逃せないけれど、それほど大きな割合ではない。

限られた手掛かりで脳ミソの動きを占うのも、気まぐれなココロの動きを占うのも難しい。解明には長い時間がかかる。待つしかないか。

本日のBGM


待つしかない。

アミンとはアミノ基(NH2基)を持つ化合物のこと。そのうち、モノアミンは読んで字の如くアミノ基を一個だけ持っているモノを指す、だそうだ。でも、あみんは二人組なので一人では成立しえない。

なお、アミノ基に加えてカルボキシル基(COOH)を持つ化合物をアミノ酸という、だそうだ。

*1:他方、損失はずるずると先延ばしする傾向があるとされる。いわゆるプロスペクト理論。

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