Les Rêveries du promeneur solitaire

★シアトリカルな最期

  • A.14℃の冷水に60秒間手を浸した後、温かいタオルを渡す。
  • B.14℃の冷水に60秒間手を浸した上で、さらに追加30秒間。ただしお湯を入れて温度を1℃上げる。

AとB、冷水に曝されてイヤナ思いをする時間の長さは同じ。両方を被験者に体験させたうえで尋ねると、8割がBの方がマシと答えたという。

これは心理学者、行動経済学者のダニエル・カーネマンによる「ピークエンドの法則」の実験として知られている。ヒトはピーク時と終わりの時の印象が強く記憶に残るらしい。正直のことろ、ほとんどそれしか記憶に残らないと言ってしまってもあまり差支えない。

そういえば、子供に勉強を教える際、最後に与える課題は多少難易度を落としても「できた!」という印象の残りやすいものにすること、なんて話を子育て中には読んだりしたなあ。あれもそうか。オワリヨケレバスベテヨシ。

CさんとDさん、ともに69年間の人生だった。Cさんははじめの10年間貧しくてたいへんな苦労をしたけれども、残りの59年間幸福だった。一方、Dさんは最初から59年間幸福だったけれども、晩年の10年間は貧しくて苦労した。

人生を通じて体験した幸福や不幸の質や量はCさんDさんともに均しいとして、どっちがマシな人生と感じるか。感じ方はヒトそれぞれでいいんだけど、多数決だとCさんかなあ。

楽しい体験をしたい、と旅行に行く。そこでとても楽しい体験をする。こんなニュアンスの「体験」という言葉は近年よく目にする。しかし、実際に体験できるとしても旅行の直後にその記憶をすべて失ってしまうとしたら、ヒトはすすんで体験しに行くだろうか。

カーネマンによると行かないと答える人が多いらしい。このようなケースでは体験よりも記憶の方を優先するヒトが多いようだ。厳密にはヒトは体験をしに行くのではなく記憶を残しに行くのだという。体験しないで記憶だけ作られるなんて場合はどうなんだろうね。


デビッド・ボウイが亡くなってそんな話を思い出した。突然の訃報に驚きながら数日前に発表されたアルバム★(ブラックスター)をポチった人は多く自分もその一人。オノレの死を意識しながら作ったアルバムということで、よくそこまでするものだなあという感じもするけれど、最後に強い印象を残していった。

デビッド・ボウイは、基本的に70年代の人で80年代初頭のレッツダンスが人気のピークだった。英国ではストーンズに並ぶほどの人気ロック歌手と聞いたことがあるけれども日本ではどうだったのだろう。

正統派ブリティッシュロックでもなく、アメリカンロックでもない。ブルース色は希薄で、筋金入りの硬派ロックンローラーの目には軽薄でチャラいと映るのか、少なくともそっち方面からの評価はそれほど高いとも言えない人だったと思う。

けれども、ミーハーな人気とともに地味で内向的というか文学オタク風の少年少女からカルト的な人気があった人でもあり、他の英国系へそ曲がり歌手とファン層が重なっていたりする、と思う。たとえば、ピーター・ガブリエルケイト・ブッシュ、ブライアン・フェリー、あと、ピーターハミル師匠も一応混ぜて^^;。

亡くなった後の扱いの大きさには、個人的にはちょっと意外な感じもした。やっぱりなんだかんだで大スターなんだろうなあ。スマップほどじゃないけどさ。

今回の芝居がかったやり方はカルト系大スターらしい最期なのかもしれない。でもそんな公的な死とは対照的に、私的な死は保守的なものだったと伝えられている。つまり家族に看取られながら安らかに眠ったという。ちょっとデキスギではないか?まあ、本当かもしれないし、多少脚色があるのかもしれない。本当のことなんてこの際どうでもいいかな。


露と落ち 露と消えにし 我が身かな 浪速のことは 夢のまた夢


なぜに秀吉?

本日のBGM




Youtubeの公式チャンネルで最後に公開されたPV。闘病中の迫真の演技。タイトルの「ラザロ」は聖書に登場する乞食で、死後、苦労が報われて天国でハッピーになった。一方、この乞食を救わなかった金持ちはそうならなかった。オワリヨケレバスベテヨシ。


David Bowie - Lazarus Lyrics | MetroLyrics
http://www.metrolyrics.com/lazarus-lyrics-david-bowie.html