Les Rêveries du promeneur solitaire

帳簿の世界史

帳簿の世界史

帳簿の世界史


欧米の会計とその責任の歴史をテーマに書かれた本です。著者は南カリフォルニア大学の教授で主に西ヨーロッパの近代史を研究しているようです。

原典は2014年に出版されたもの。原題の「The Reckoning」 には「決算」「清算」のほかに「最後の審判」「報い」「罰」といった意味があり、本書の重要なキーワードになっています。サブタイトルは「Financial Accountability and the Rise and Fall of Nations」(財務会計責任と国家の興亡)。自分が読んだ日本語版は2015年に出版されました。翻訳は村井章子氏(ダニエルカーネマン「ファスト&スロー」など)。

主にルネサンス期から近代の西ヨーロッパや米国を舞台に会計の発達や国家財政まつわるエピソードが取り上げられ、終盤にこれらの歴史を踏まえて世界恐慌エンロン事件に代表される大きな会計不正、リーマンショックなど現代社会への考察が加えられています。

本書を通じて述べられていることは、国家や企業といった組織にとって会計が繁栄の強力な武器になると同時に腐敗や衰退の原因にもなりうる諸刃の剣だということ。

著者は会計責任がよく根付いた社会にはそれを支える倫理観や文化の枠組みが存在していたと述べています。しかしながら、これを維持することは難しく継続的に果たした国家はいまだかつてないとも指摘します。

資本主義と近代以降の政府には、決定的な瞬間に会計責任のメカニズムが破綻し危機を深刻化させるという本質的な弱点があり、経済破綻は金融システムに組み込まれているものだと考えています。経済破綻はいつか必ずやってくるもの、そう考えています。

かつて隆盛を極めた組織には、神による最後の審判への恐れなどから会計(accounting)や責任(accountability)を重視する文化が社会に根付いていました。会計制度の複雑化や相次ぐ不正による会計不信により、現代は会計に対する一般市民の関心が薄れて多くを期待しなくなっていますが、いつか必ずやって来る清算の日に備えるべく、かつてのような倫理的、文化的な高い意識と意志を取り戻す必要があると主張しています。


学者が書いた本ではありますが、学術的に緻密に考察されたものというよりは会計にまつわるエピソード集として楽しく読めました。基本的には政治経済の歴史をテーマに書かれたもので会計の技術的な側面についてあまり詳しく書かれていないため、個人的にはもう少し深く知りたいなと思う部分がありました。


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<レビュー>
◆どんな英雄も、どんな大帝国も、会計を蔑ろにすれば滅ぶ| 鼎談書評 - 文藝春秋WEB
http://gekkan.bunshun.jp/articles/-/1314

◆権力とは、財布を握っていることである | 東洋経済オンライン
http://toyokeizai.net/articles/-/65119?page=3

◆‘The Reckoning’, by Jacob Soll - FT.com
http://www.ft.com/intl/cms/s/2/ec9c5abe-cb02-11e3-ba9d-00144feabdc0.html


<著者へのインタビュー>
アベノミクスは世界史上、類を見ない試み:日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/230078/070300002/