Les Rêveries du promeneur solitaire

2乗3乗の法則と体格と戦闘力(!)と

暑くてなにもする気にならないと、いろんな余計なことを考えてしまうま。

筋力が筋肉の重量の増加に対して0.67乗しか増えないという説をネットで見つけた。この理屈に従うと、たとえば筋肉の重量を2倍に増やしても1.6倍くらいしか増えない。重量3倍でやっと2倍程度だ。

なぜだろう。さらにググってみたらその根拠に「2乗3乗の法則」というのをみつけた。

筋力は筋肉の太さ(=断面積の広さ)に比例する。一方、筋肉の重量はその体積に比例する。正方形の面積と立方体の体積の計算式が示すように、面積は一辺の長さの2乗で体積は3乗。だから、たとえば一辺の長さが2倍になると面積は4倍だが体積は8倍に増える。面積が9倍のとき体積は27倍。この関係を一般化すると「面積の増加=体積の増加の2/3乗」が成り立つというのが理屈。2/3乗≒0.67乗。

恐竜が巨大化しすぎて滅びたという言説にも2乗3乗の法則が関与しているらしい。この法則によれば巨大化しても筋力は体重ほど増えないから、しだいに動きづらくなってくる。それに加えて重い体重を足の裏で支えなくてならなないけれど、足裏の面積にしても体重ほどは増えないから、単位面積当たりの荷重が増大する。生活しづらい。

それから、恒温動物は同じ種でも寒い地域に生息するほど体長が大きい傾向にあるらしい(ベルクマンの法則)。マレーグマは小さいがホッキョクグマはでかい。ツキノワグマはその中間。

恒温動物が産生する体熱が体の体積(体重)に比例するのに対して放熱で外に排出する量は体表の面積に比例する。だから2乗3乗の法則によって体長が大きくなるにつれて体表面積/体重の比が小さくなると、放出する体熱/産生する体熱の比率が小さくなる(=寒さに強くなる=暑さに弱くなる)、ということらしい。生活する気候に合わせて自ずと産熱と排熱の収支が合うサイズになっているというのだ。ふーん。ゲルマン人がラテン人やアジア人より高身長なのもそのせいなのだろうか? 背の高い人は低い人より暑がりなの?

この体積と面積の関係は当然ながら人間とか動物に限った話ではないから、模型を作ってシミュレーションをするようなお仕事の人たちの間では、きっと常識の部類に入る話なのだろう。

ところで、ランニングで必要なエネルギーは、大雑把にいうと体重と距離に正比例するとされている。よく言われるのは「1cal/kg/km」。1kmの距離走るのに必要なエネルギーは体重1kgにつき1kcal。体重60kgで10kmなら600kcal。ランニングに必要なパワーも体重と速度に比例する。体重が2倍になると同じ距離を走るのに2倍のエネルギーが必要になるし、同じ速度で走るなら2倍のパワーが必要になる。筋量を増すことで得られる力の増加が重量ほどでないのならば、そのメリットは小さい。ちなみにエリートランナーの足の筋力は一般人よりも弱いようだ*1。ちょっと意外な感じもするけれど。

長距離ランナーの戦闘力(!)を示すものとしてよく使われる最大酸素摂取量 (VO2MAX)は主に心肺機能を示す指標ではあるが、やはり体重1kg当たりの値である(ml/kg/min)。VO2MAX=50は体重1kg当たり1分間に50mlの酸素を使えることを表している。同じVO2MAXなら体重が大きい方が使える酸素の絶対量は大きい。けれども体重が大きければ大きい分だけ走るのに必要な酸素が増えてしまう。結局、体重当たりの効率が重要になる。

大雑把に試算してみると、VO2MAX=50、体重60kgの場合、1分間に使える酸素は最大3リットル(=50ml*60kg)。酸素1リットルを使って糖質や脂肪から取り出せるエネルギーは約5kcal(5kcal/l=5cal/ml)というから、1分間に産生できるエネルギーは最大15kcal(3l×5kcal)となる。

一方、ランニングに必要なエネルギーは前出のとおりで、60kgの人が10km走るには600kcalが必要。

したがって、VO2MAX50、体重60kgの人が、100%の運動強度で10km走れば所要時間は40分(600kcal÷15cal)になる。100%の強度ではふつう10kmも走れないので90%とすると44分余り(600kcal÷15cal×0.9)。

体重を60kgから変化させても、VO2MAXが一定ならば最短所要時間(最大速度)は同じである。体重70kgなら必要なエネルギーが700kcalに増えるけれども、産生可能な最大エネルギーも17.5kcal/分に増える。結局のところ体重に関わらず、VO2MAXの値に5calを掛けた数字が1分間に走れる最大距離(=最大分速)になる*2

ただVO2MAXも筋肉が肥大化させるとなかなか維持するのは難しいという話があるらしい。体が大きくなれば酸素を巡らせるのも手間だということか。それとも肥大化する筋肉は主に速筋だからということか。いずれにせよエリートランナーの体型を見て推して知るべしといったところ。

サイクリングの場合、フラットなコースなら主な抵抗力は空気抵抗になる。空気抵抗には体格は多少関係するにしても体重は関係ない。むしろ慣性力は質量に比例するから、いったん加速してしまえば止まりにくくなる。車は急に止まれない。重い車ならなおさら。

サイクリングの戦闘力(!)を示す指標にはFTPというのが使われる。FTPは一時間持続可能なパワー。単位はワット、踏力トルク×ケイデンス(ペダルの回転スピード)によって生み出される。

FTPは体重当たりの指標ではなくパワーの絶対値だ。傾向として体重が重い方が有利で、体重60kgが70kgにFTPで対抗するのはけっこうしんどいらしい。踏力は筋力だけでなく自重も武器になる。とはいえ筋力には2乗3乗の法則の制約があるし、パワーはケイデンスで稼ぐこともできるのだからFTPの格差は体重ほどには開きにくいと思われる。

同じサイクリングでもヒルクライム(上り坂)となると主な抵抗力が勾配抵抗に変わる。勾配抵抗は質量に比例するから、戦闘力(!)を示す指標としては絶対値よりも体重当たりの効率が重要視される。パワーウエイトレシオ(PWR)は体重1kg当たりのFTPだ。

実際の走行時には自転車や装備の重量も加わるから、同じPWRならばFTPの絶対値が大きい方が、自転車等も含めた全体のパワーウエイトレシオは大きくなる。

しかしながら、前出のとおり筋肉の重量増がダイレクトに踏力やFTPのアップにつながるわけではないと思われるので体脂肪をより絞り込むなどしないと効率の維持・向上は難しいだろう。

ならばいっそのこと自転車を軽量化する?ロードバイクをさらに1kg軽くするには、けっこうなお値段が・・・。すでに洗練されまくったスーパーボディならともかく、ホビーサイクルの一般市民ならガンバッテ体脂肪の重量を絞った方がマシかもしれない。やっぱい世の中そう簡単にオイシイ話は転がっていなさそうだ。うーむ。

*1:コラム(健康・体力アップ情報)- 横浜市スポーツ医科学センターhttp://www.yspc-ysmc.jp/ysmc/column/health-fitness/run-2.html

*2:とはいえラフな見積もりの世界の話であり、本当はランニングエコノミー等も勘案しなければならないだろう^^;