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Les Rêveries du promeneur solitaire

サイコパスの真実

サイコパスの真実 (ちくま新書)

サイコパスの真実 (ちくま新書)

人当たりがよく、優しい言葉をかけ、魅力的な人柄。だけど、よくよく付き合うと、言葉だけが上滑りしていて、感情自体は薄っぺらい……。このような人格の持ち主を「サイコパス」と心理学では呼ぶ。近年、犯罪者の脳の機能や構造などが明らかになり、サイコパスの正体が明らかにされつつある。本書では、最先端の犯罪心理学の知見にもとづいてサイコパスの特徴をえがき、ヴェールに包まれた素顔に迫る。

前回のエントリで紹介した「入門 犯罪心理学」と同じ著者の本です。同じちくま新書からの第二弾。

サイコパスについては前著でも触れられているのですが、本作では焦点を絞り掘り下げて紹介しています。

なお、このブログでは書かれた順番で紹介していますが、実は自分は今回の「サイコパスの真実」を先に読んで面白かったので、前著の「入門 犯罪心理学」へ遡って読んだのでした。

雑感

今日はまず雑感から。

正直、読んでいて何度か嫌悪感が込み上げてくるのを感じたのですが、感情は感情として理性で読み進めました。

その嫌悪感の源泉がなんだったのかと考えてみると、自己の欲望最優先とか、ほぼ生まれつき良心がないとか、他人が苦しんでいるのをなんとも感じないとか、それなのに異性にもてるのは世の中おかしいだろとか、「うらやまけしからん」とか、会社のあの嫌な偉い人はひょっとしてサイコパスなんじゃなかろうか?とか。

サイコパスの特徴について、自分にも当てはまりそうかなと思う部分もいくつかあったのだけれど、自分はなんといっても小心者で不安を感じやすい。ホラー映画もジェットコースターも苦手。時代劇の血を見るのもゾっとしてしまう。サイコパスになりたくないにしても、もう少しでいから冷静とか勇敢になりたいですわ。「戦士の遺伝子」なんてかっこいいよなあ。

サイコパスは「どうせ不器用な人なのだろう」という先入観があったため、コミュニケーション能力や他者操作性が高い(他人を巧みに使う)というのは意外だった。

たとえば自閉スペクトラムの人たちとは共感能力の乏しさとう面で共通するけれど、対人・コミュニケーション能力の面では全く逆。不安や恐怖も比較的感じやすい人たちだと思う。

でも「共感能力がない」というのは、多数派が少数派に対して同調圧力をかけているという面もあるように思っている。サイコパスが我々多数派に対して共感できないのと同じように我々もサイコパスに共感することはできないのではないか(自分にはムリ)。多数派はサイコパスに共感できないので、強く恐れるし嫌悪感を持つし排除しようとする。結局のところ「どっちもどっちではないのか」という面もあるのでは?

とはいえ世の中そんなに甘くはない。ダイバーシティインクルージョンとはいうものの、突き詰めていくと綺麗ごとでは済まされないところに突き当たってしまう。サイコパスの排除は結局のところ社会全体のためにならないという理屈は合理的で筋が通っていると思うけれども、一方でアリンコのように殺されるのはたまったものではない。この理性と感情の乖離の幅は広くて解消が難しい。

サイコパス的リーダーで想起したのは「項羽と劉邦」の項羽項羽はとにかく勇敢で強い。残虐で冷淡で無反省。

今日は時間があったので長い記事になってしまいました。

目次

はじめに 隣りのサイコパス
第1章 私が出会ったサイコパス
第2章 サイコパスとはどのような人々か―サイコパスの特徴
第3章 マイルド・サイコパスサイコパススペクトラム
第4章 人はなぜサイコパスになるのか―サイコパスの原因
第5章 サイコパスは治るのか―サイコパスの予防、治療、対処
第6章 サイコパスとわれわれの社会―解決されないいくつかの問題
おわりに サイコパスはなぜ存在するのか

内容について

サイコパスの研究をもとにその定義や様態、原因、治療を含めた対処法等について説明したのち、サイコパスの存在理由について筆者のアイデアが述べられています。

サイコパスの定義と様態

サイコパスの中核的な要素は良心や共感性の欠如。本書では以下の四因子で説明している(カナダの反省心理学者ロバート・ヘアによる四因子)。

・対人因子
表面的な魅力、尊大な自己意識、他者操作性、病的な虚言癖、性的な奔放さ、自己中心性と傲慢さ。一見人当たりが良く魅力的。異性からもてる。卓越したコミュニケーション能力。人を操作する術に長け、心に弱みや悩みを抱えている人を見抜くのが得意。

・感情因子
冷淡性、共感性の欠如、良心の呵責や罪悪感の欠如、不安や恐怖心の欠如、冷淡さと残虐性、浅薄な情緒性、自分の行動に対する責任を感じない。後悔しない。

生活様式因子
行動コントロールの欠如、現実的で長期的な目標の欠如、衝動性と刺激希求性、無責任性、寄生的ライフスタイル。

・反社会性因子
幼少時の問題行動、少年期の非行、早期からの行動的問題、仮釈放の取り消し、犯罪の多方向性。

サイコパスはマイルドなものも含めると100人に1人の頻度で存在する。男性が多い。サイコパス=犯罪者というわけではなく、多くは社会でふつうに生活している。同時に、犯罪者=サイコパスというわけでもなく、刑務所人口のうち15%~25%程度。

ジェームズ・ボンド(007)はサイコパスの特徴を持っている。政治家、企業経営者、学者、トップアスリート、芸能人、アーティストなど成功した人にも多いという。例えば、スティーブ・ジョブズ、トランプ米大統領にもサイコパス的特徴が指摘されている。

そこまで大物でなくとも、企業の中にはサイコパスが存在し、ハラスメントや不正、企業犯罪に関与することがある。また反社会性が低く能力の高い場合には、リスクを恐れない勇敢さや冷静さ、高いコミュニケーション能力、強いリーダーシップといった長所を生かすことのできている「よいサイコパス」も存在する。

サイコパスの原因

認知、脳画像、神経伝達物質、遺伝、環境の各側面からみた原因論

認知面(説明モデル)からの仮説
・恐怖機能不全モデル
不安や恐怖などの感情的反応(生理的な反応を含む)の著しい弱さ。感情的情報のインプットがあっても、脳の情報処理回路のどこかでそれが認識されないような状況になっているのではないか。

・暴力抑制装置モデル
共感性の欠如により、暴力抑制装置が働かない。他者の表情など苦痛の手掛かりを読み取れない。

・反応調節モデル
注意力、判断力などの高次機能の障害。極端な集中傾向。たとえば自分の利益を追求するあまり、他者の利益や感情を無視する傾向。


脳の解剖学的側面(脳画像)からの仮説
偏桃体の機能不全仮説。情動を司る偏桃体など大脳辺縁系(温かい脳)が弱い一方で、理性を司る前頭前皮質(冷たい脳)は比較的正常で、バランスを欠いている。


脳の生化学的側面(神経伝達物質)からの仮説
ドーパミンの過剰。過剰に快楽や刺激を求める傾向。
セロトニンの過剰がセロトニンに対する感受性の低さ:「セロトニン不感症」につながり、攻撃性として表出するのではないか。


遺伝と環境
ある双生児研究の過去研究のレビューによると反社会的行動に対する遺伝と環境の寄与率は、遺伝が96%、共有環境0%、非共有環境4%。つまり遺伝の影響が大きい。

際立った攻撃性のある非行少年は「戦士の遺伝子」、MAOA-Lを持っている。MAOA-Lはセロトニンを分解する酵素の算出を抑制する。これがセロトニン過剰につながっている。ただし、この遺伝子が単独でサイコパスを作り上げるわけではない。

一般にパーソナリティの形成には遺伝的素因に加えて環境要因の複合的に影響している。遺伝子の発現様式には環境要因が影響を与える。サイコパスも同様である。ある英国の研究においてサイコパスと非サイコパスとの環境要因に差があったものとして大きい順に、「父親の不関与」、「身体的ネグレクト」、「父親が犯罪者であること」、「世帯収入の低さ」、「母親が犯罪者であること」、「崩壊家庭」、「きょうだいの非行」があった。

サイコパスの治療

治療は容易ではない。非サイコパスと同様の治療法では効果が期待できないばかりか逆効果の可能性も。本人の共感性や良心に訴える方法はムダ。本人に行動を改めようするモチベーションが欠けるため治療者との間に信頼関係や協働関係が築けない。

したがって十分なアセスメントとサイコパスに特化した治療プログラムが必要。介入法としてエビデンスがあるのは認知行動療法。長期間の認知行動療法集団療法に加えて個人療法でも実施し、さらに早期治療を行えば、効果が見込めそう。

治療目標をサイコパスというパーソナリティの問題の改善(善人になること)に置くのではなく、彼らのライフスタイルをより向社会的なものにすることに置くのが現実的。

早期治療と予防が効果的であり重要。例えば貧困で未婚の若い母親などに対する育児サポートやペアレントレーニング。単に刑事司法の問題、道徳や社会規範の問題ではなく、癌や生活習慣病などと同じく、生物学的要因、環境的病因によって発症し、予防も治療も可能な「公衆衛生上の問題」としてとらえることが必要。

薬物療法では、リチウムや抗うつ剤SSRI)、抗てんかん薬に効果がある可能性が示されている。

身近なサイコパスへの対処

・むやみに近寄らない。
・表面的な言葉を鵜呑みにしない。
・会う必要があるときは、一人でなく複数で会うようにする。
・自分の個人的なことは話さない。
・本人の経歴等については、客観的証拠を基に判断する。
・組織や企業では、重要な意思決定ができるポジションには就かせず、個人情報やセキュリティを扱う部署に配置しない。

偏見や差別の対象とするのではなく、害を回避しながら上手に付き合っていくことが必要。もしかすると自分もサイコパスかもしれない。

解決困難な問題(哲学的課題)

サイコパス責任能力について(自由意思の存在に関する問題)
・超ハイリスクなサイコパスへの対処(過剰な拘禁、社会的排除の是非)
・国家による遺伝子管理・子育て管理など、極めてラディカルな予防措置(消極的な優生学と親免許制度等の是非)

サイコパスの存在理由

サイコパスが絶滅せず、現代まで生き延びたということは、暴力に満ちた人類の歴史の中でサイコパスであることは一つの適応的な生き方であったし、人類全体にとっても意義のあるものだったのかもしれない。現代においてサイコパスが異常になったのは、社会の方が変化したからかもしれない(障害の社会モデル的な観点)。

集団や種全体というマクロの視点からは、サイコパスを必要以上に恐れ、排除し、悪魔のレッテルを貼るのではなく、刑罰、治療、予防などによる対処はそれぞれに重要ではあるけれども、究極のところでは、その存在と共にあり続けることが必然なのだ。