Les Rêveries du promeneur solitaire

あの丘を駆け上がって


Kate Bush - Running Up That Hill - Official Music ...

そして、もし叶うのなら
神様と取引して
お互いの立場を入れ替えさせてやるのに
あの道を駆け抜け
あの丘を駆け上がり
あのビルを駆け上るのに
もし叶いさえすれば…


取引や契約する相手先は悪魔ばかりとは限らないというお話でした。渡る世間に鬼はなし(嘘)。

昔、「マドンナよりも歌がうまく、マドンナよりもダンスがうまく、マドンナよりも美しい」なんていう感じのケイト・ブッシュ評をどこかで読んでちょっと引いた記憶がある。ケイト・ブッシュとマドンナを同じ評価軸で比較するなんてちょっと不自然じゃないかと思った。

でも、日本ではへそ曲がりのオタク専用の音楽なのだが、ひょっとして英国人の感覚ならそんなにピントが外れていないのかもしれない。英国ではかなり影響力を持っている歌手らしい。でもその記事は日本人の女性が書いたものだったような気がする。たしか。マドンナとは1958年生まれの同い年。

この曲、"Running Up That Hill(Deal with God)"(邦題:「神秘の丘」)は、1985年に発表された5枚目のアルバム、"HOUNDS OF LOVE"(「愛のかたち」)の1曲目に収録されている。初のセルフ・プロデュースに挑戦した4枚目は、かなり奇抜でちょっとおかしくなっちゃったんじゃないかってくらいにはっちゃけた出来栄えだったのに対して、この5枚目はやや落ち着いて、ケイト・ブッシュのアルバムの中でも地味な印象があるけれども、隠れた佳作。

動画は見てのとおりの奇妙な踊りで、意味ありげなジェスチャーや表情からなにか読み取ろうとするのだけれど、自分にはわからない。わかる人にはわかるんだろう。きっと。ダンスの師匠はリンゼイ・ケンプという前衛ダンサーなのだそうで、デビッド・ボウイとはきょうだい弟子に当たる。パントマイムを多用して演劇的なパフォーマンスが得意。マドンナのダンス(よくしらない)と比較すると、欧州的で白人的な感じがする。

もともとは歌唱力も重要なセールスポイントではあるものの、4枚目辺りから「通常の意味合いでの歌のうまさ」を最前面に押し出したような曲は影をひそめて、いろいろと声の出し方を工夫して表現するようになっている。時代背景的にも伝統的な「歌のうまさ」は保守的すぎたのかもしれない。この曲も力強いけれど若干ささくれだったちょっと雑な発声で「うまく」はない。

2012年のロンドン・オリンピックの閉会式で演奏された。ケイト・ブッシュは再三の出演要請を拒んだとされている。ウィキペディアによれば、ほかにデビッド・ボウイローリング・ストーンズセックス・ピストルズ(笑)なども出演のオファーを拒否したとされている。セックス・ピストルズはお約束すぎるだろう(ちなみに「ロックの殿堂」入りも拒否ったということになっている)。オチがまとまりすぎているせいでかえって信憑性に疑問符がつく。まぁ芸能ネタなんて自分の信じたいことだけ信じていればよいような気もするけれども。浮世話をネタに漂流するのも一興である。