Les Rêveries du promeneur solitaire

おっちゃんたちの宮殿の中で ~ In The Court of Old Men

遠い若かりし頃、渋谷にはわりと頻繁に通っていたのだが、ずいぶん前に社会人になってからは行かなくなった。当地で大勢の若者たちが集まって暴れているニュースを何も考えずただボーっと眺めていたものの、実際にハチ公前に行ってみたら若人共がまるでゴミのように溢れていて驚いた(byムスカ)。少子高齢化ってデマなんじゃないの?

今回の目的地(仮に「宮殿」と呼ぼう)は、ハチ公前からそれほど遠くないところにある。一時期、けったいな映画(?)を観によく行っていた。けど、あいまいな記憶で慣れない大都会の人混みを縫うように歩いていたら道を間違えてしまった。かっこ悪いなと思いながらも仕方なくスマホを取り出し、ナビに頼って進んでいくと、ラブホ街の狭くて薄暗い道を通り抜ける羽目に。おかげで人混みからは退避できたけれど、なんだか少し緊張した^^;

ようやく宮殿にたどり着くと、そこには少子高齢化社会が待っていた。これが現実か。宮殿の中にはお疲れ気味のおっちゃんたちがまるでゴミのようだ・・・。自分もその一部にまじっている。ハチ公前よりもよく混ざるしよく溶ける・・・けどオレ、まだ若いほうじゃね?

だって50周年なんだもの。私のファン歴はたかだか35年余り。若僧である。

実はキング・クリムゾンのライブはこの日が初めて。そもそも私はあまりライブに行かない。ロックはライブで演奏者と聴衆が一体になって盛り上がるというのが醍醐味みたいに言われるけれども、私は基本的にレコーディングされた音楽を再生して聴くのが趣味なのだ。

なぜだろうか。

世代的にプログレ全盛期をリアルタイムで体験していないからではないか。自分が一番夢中になっていた時期、プログレを演奏しに海外のバンドが日本に来るということはほとんどなかった。まわりにこの偏った趣味を共有できる人もほとんどいなかったから、ひとりぼっちで自分の部屋に閉じこもって楽しむのが基本スタイルだった。

暗い青春である。もしそれが青春と呼べるのなら・・・

プログレ演奏家はテレビには出てこないし、ロック系の音楽雑誌にすらあまり取り上げられない。当然YouTubeなんてない。だから映像にはそれなりに飢えていて西新宿の如何わしい店で海賊版のビデオを買ったりもした。海外で販売されている(過去に販売されていた?)正規版を無法にダビングした粗悪品で音質も画像もそれはもう酷いものだった。けれど、それ以上のものは望めなかったし、それなりに興奮して歪んだ映像に目を凝らした。

今日この宮殿の中に自分と似たようなおっちゃんたちが大勢集まっている。自分だけの趣味だったはずが、今の私はゴミのような集団に混じっているほんの小さな一粒にすぎない。なんだか変な感じである。

今更、クリムゾンのライブに行くこともないだろうとも思っていた。2013年に今のバンドが活動を始めた時、いつも厳しかった御大の表情は柔和になっていた。しかも昔の曲をやるという。このバンドには常に新しい音楽を探求しつづける「義務」が課されており、懐メロはご法度のはずだった。といっても私は新しい曲に興味はないのだが・・・とにかく「ああ、クリムゾンよ、ついにお前もか」と思うと、とても身勝手だけど複雑な気分がした。

ところが、2015年の来日公演は予想以上に評判が良かった。昔の曲といってもアレンジを変えている。そしてトリプルドラム。このバンドはレコーディングをやらない。ライブしかやらない。これは行った方がいいのかもと思った。50周年。個人的にも50歳でキリが良かった。

当日、宮殿の中で演奏された音楽は素晴らしかいものだったと思う。とはいえ、さっき書いたように私はあまりライブに行かないので比較対照はない。とにかく行ってよかったと個人的に思った。他の人にとってどうかは、悪いけどよくわからない。

即興演奏が多かった70年代と比べると全体的に統制された感じの強い大人の演奏だった。サッカー(最近見てない)でいうとブラジルよりもスペインというか、個人プレーもあるけれど、きちんと組織立っている印象。

最前列のトリプルドラムは、ここぞという時以外は単純にユニゾンで叩いたりしない。バラバラに演奏していて異なるリズムを刻んでいることもある。かといってメチャクチャにやっているわけでもなく個々に細かい決まり事や役割があるようだった。3人で微妙にタイミングをずらせる時間差攻撃のような連携プレーの場面もあり、クリムゾンらしい緊張感が張り詰めている。3人で相当練習を積んだのだろう。

前線ですさまじい音圧を発しているドラムの背後から、艶のある叙情的な音がオーバーラップする。

ジャズの雰囲気を醸しているサックス。メル・コリンズは衰えてなかった。ボーカルは往年のキング・クリムゾンらしい甘い声。ベースは裏方の支えに徹している。

ノスタルジックな音を発するメロトロンはバンドのサウンドの要。生演奏のメロトロンってこんなに壮大な音がするんだなと感心した。大河の流れのような・・・。「機械の音だからって生演奏をナメたらあかんぜよ」といった感じ。ナメてました。すいません。すいません。

御大も相変わらず艶っぽい音を出していた。もうしばらく演奏できそうだけど運指はどうなのだろう。お得意のシーケンシブなミニマル・フレーズを弾くのはさすがにもう厳しい感じもする。御大の演奏する姿を直に見るのは今日が最初で最後かも。

自分が宮殿に来た理由、結局はそこなのかなと思う。
私は昔の曲を演奏する御大が見たかったのかもしれないなあ。
ほかのおっちゃんたちもそうなんだろう?
御大も聴衆ももうたくさん年をとっていた。
懐メロでも悪くないかもね。