Les Rêveries du promeneur solitaire

ポジティビズム!「論より証拠」論 その4

バタフライ効果:カラクリと予測の関係

1.コスモスとカオス

はじめにロゴスありき。聖書的にいって宇宙は初めから秩序立っていた。完全無欠の神様はデタラメなものをこしらえたりしない。こういう宇宙をコスモスと言う。もともとは古代ギリシャ神秘主義ピュタゴラスが調和のとれている状態を指して使い始めた言葉という説があるらしい。

しかし一方、そのギリシャの神話で最初に生まれた神様は秩序立っていなかった。その神様の名前はカオス。はじめにカオスありき。そういえば、小学生のときに読んだ西遊記のプロローグでも、この世に最初に生まれた神様の名前は 混沌だった気がする。

2.オモテナシとカオス

ところで、最近米国で国を挙げたババ抜きゲーム (ポーカー?)において、不動産キング (ジョーカー?)がただでさえクリーンとはいいきれない不動産業界のイメージをさらに悪化させている感じがする。

我が国においては、金融緩和や円安などの事情からアジアマネーが流れ込むインバウンド投資が目下さかんである。国内富裕層の相続税対策もあって都市部のオフィスやレジデンスの不動産価格は上昇し、利回り(収益価格)はリーマンショック以前の水準まで低下(収益価格は上昇)している。

円安効果で観光業界もインバウンドリーマンショック東日本大震災&原発事故で低迷していたホテルの客室稼働率は復調、一部屋当りの単価も上昇傾向にある。宿泊部門の売上高=客室1部屋当たりの単価×客室稼働率。宴会やレストランはいまひとつ盛り上がりに欠けるようだが、宿泊部門は好調で売上が伸びている。

不動産投資としてのホテル投資は、事業運営の巧拙に左右される要素が大きいことから特異的な難しさがあり、こういう不動産をかっこつけて「オペレーショナル・アセット」と呼ぶ*1

しかし近頃は、楽観的なシナリオのストーリーを描きやすい投資環境になった。また、都市部の質の高いオフィスやレジは価格上昇によって十分に利回りを取れなくなったため、投資対象として物色される物件の種類や地域の裾野は広がってきた。ホテルにも積極的な買い姿勢を見せる人が増えているようだ。リスクオン!

3.レバレッジ効果:不動産王にオレはなる!

カラクリをきっちり解明すれば、結果の予想も簡単になるのだろうか?

ホテル投資とは、ホテルオーナーになることであり、通常、ホテル事業の運営は業者 (オペレーター)に任せることになる。稼げるオペレーターをいかにして雇うかというのが一つのポイントで、成績不良のオペレーターはオーナーから首を挿げ替えられることもある。

ホテルの売上げから事業運営のコストを差引いた利益をGOP*2という。そこからさらにオペレーターへのフィーと固定費産税・保険料などの不動産保有コストを控険した後のすべてがオーナーの取り分。ホテル投資はトップライン (売上高)とボトムライン (利益)の格差が大きめらしい。つまり売上高利益率が低め (経費率が高め)。

売上と利益との関係において固定費はテコの原理のように作用する。売上げが少し変化するだけで利益が大きくブレるのだ。これを経営レバレッジという。売上高利益率が低く(経費率が高く)、かつ経費全体に占める固定費の割合が大きいとレバレッジの効き具合は大きくなる。

仮に現在、売上高利益率を20% (=経費率80%) とする。売上高10,000に対して利益が2,000、費用は8,000としよう。ここでは便宜的に費用のすべてを固定費と仮定する。

ホテルのお値段は、現在の相場が利回り5%(利益÷価格)で取引されているとすると、40,000になる (購入価格40,000=利益2,000÷取引利回り5%)。

購入費用はモトデ (自己資金)が12,000、残り28,000 は借金でまかなう。今なら金利は低い。借金もまたレバレッジとなる。このレバレッジ財務レバレッジという。金利を固定金利で年1%とすると、毎年支払う利息は280 (借金28,000×1%)となる。

オーナーがホテルから受け取る利益は2,000だから、利息を支払っても1,720が手元に残るカラクリだ。モトデに対する利回りは14.3%(1,720÷自己資金12,000)にのぼる。この数字は株式会社でいうと目下流行中のROE(株土資本利益率)に当たる。ウハハ‥・


ではここで売上高が10,000 から11,000 へ増収した場合について考えてみる。費用はすべて固定費だから8,000 のまま。利益は2,000 から3,000 になる。経営レバレッジによって売上が10%増加しただけで利益は1.5 倍になる計算だ。さらに支払利息控除後の手元の儲けは1,720 から2,720 に増える。約1.58 倍。モトデに対する利回りは、なんと22.7% (2,720÷12,000)。不動産王にオレはなる!ウシシ・・・

それに加えて、ホテルの収益性が改善すれば、資産価値が値上がりしてキヤピタル・ゲインも見込める。ここでは財務レバレッジがより効き目を発揮する。ホテルの資産価値が10%アップして44,000になれば自己資本は16,000(資産価値44,000-借金28,000)に。モトデは時価ベースで33%増える。フフフ…フハハハハ…ダイトーリョーも夢じゃない!?


でも、この道はいつか来た道。この好環境はいつまで続くのだろうか?中国経済は不透明さを増している。米国は遠からず利上げするといわれている。東南アジアなど新興国通貨は下落。原油などのコモディティも下落。銀行の態度が変わってお金の流れが急に止まることもある。海外マネーは浮気者で風向きや潮目が変われば余所へ飛び立つ。円高に振れればアジアの来日客も減るかもしれない。

客室の稼働率が下がってくると、競争激化やテコ入れの目的で単価を値引かざるを得なくなったりする。稼働率×単価=売上高。稼働率が10%下がって単価を5%引き下げたとする。稼働率が復活すればよいが、そうならなければ稼働率低下と単価下落とのダブルパンチで売上は14.5%低下する (1-90%×95%)。

売上高が10,000から14.5%減少して8,550になれば、費用8,0O0を控除した利益は550になる。ここから借金の利息280を支払うと手元に残るのは僅か270。かろうじて黒字を確保。

しかし、ホテルの収益性の低下に加えて将来への不透明感から、これまでの楽観的なシナリオは脆くも崩れ去った。するとリスクプレミアムが増大して取引利回りに上昇任力がかかる。取引市場はババ抜きゲームの様相へ。

ホテルから上がる利益水準が550 となり、同時に取引別回りが購入時の5%から5.5%へ上昇した場合、単純計算で資産価値は10,000になる (550÷5.5%)。購入価格の4 分の1まで下落。これに手元になんとか確保した儲け270を足しても、借金28,000 には焼け石に水。実質的な債務超過に陥る。キャッシュが回っていれば即死は免れる。だが、危険を察知した銀行が担保の積み増しを要求してきた。担保に差し出せる資産は...ない。レバレッジが逆回転して急速に収縮。大富豪から大貧民へ。

このお話はフィクションであり、投資のスキーム (カラクリ)も単純化している。カラクリが明解だったとしても、前提のちょっとした変化が結果に大きな変化を及ぼすため将来を見通すことがとても難しい。想像をはるかに超えることがある。



想像するより現象を骨身の髄に刺せよ
血潮が錆びる前に

4.バタフライ効果とカオス(と青春時代)

ブラジルで蝶が一匹はばたくとテキサスで竜巻が起こる。そんな性質をバタフライ効果というらしい。気象が決定論的な物理法則で説明できるとしても、その法則性が指数関数的なものだったりすると、パラメータの微妙な変化が予測結果 (天気予報)を大きく左右することになる。

パラメータには技術的にどうしても誤差は避けられないから、その誤差や端数処理、ちょっとした入力ミスなどに振り回されて予測は不確実で確率論的なものになったりする。こういうのをカオス理論というらしい。

カラクリが分かっていたとしても、即、結果をズバリ言い当てられるとは限らない。はじめにロゴスありき、でも結果は事実上カオス。

ちなみに些細な出来事がその後の歴史を大きく変えたなんていうストーリーは、最中では胸にトゲを刺すようなことばかりかもしれないけれど、青春時代のように傍から見ている分にはドラマチックで楽しいから、バタフライ効果ポップカルチャーでよく取り上げられるなんて話がウィキペディアに書いてあった。

おまけ:テリーボジオとバラフライ効果 (本日のBGM)


ガールズメタルバンドのAldious。この分野はまったく知らないのだが、このバンドに最近テリーボジオのお嬢さん*3がドラマーとして加入したらしい。

バンドから正式なリリースはされていないようだが、ボジオ師匠がFacebookでオレの娘がバンドに入ったぜとか言っちゃってるし、奥さんもブログに書いちゃってるんで。

なお、この動画(バラフライ・エフェクト)は前のドラマーの時代のもの。ボジオお嬢のドラムはYouTubeに上がっているものを見た限りでは、もうちょっと軽めでメタルっぽくないかな。シャープでキレのあるタイプのような感じがした。

*1:ちなみに、かっこはつけてもよいが括弧(「 」)は特につけずとも可である

*2:Gross Operating Profit

*3:デイル・ボジオとの間のお子さんではなく、今の奥さんの連れ子でボジオ師匠と血縁関係はない。