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Les Rêveries du promeneur solitaire

入門 犯罪心理学

入門 犯罪心理学 (ちくま新書)

入門 犯罪心理学 (ちくま新書)

犯罪心理学の現状について平易に紹介した本です。著者は犯罪心理学の専門家として現場でも研究面でも経験のある人です。

近年、犯罪心理学は目覚ましい発展を遂げた。無批判に信奉されてきた精神分析をはじめ実証性を欠いた方法が淘汰され、過去の犯罪心理学と訣別した。科学的な方法論を適用し、ビッグデータにもとづくメタ分析を行い、認知行動療法等の知見を援用することによって、犯罪の防止や抑制に大きな効果を発揮する。本書は、これまで日本にはほとんど紹介されてこなかった「新しい犯罪心理学」の到達点を総覧する。東京拘置所や国連薬物犯罪事務所などで様々な犯罪者と濃密に関わった経験ももつ著者が、殺人、窈盗、薬物犯罪、性犯罪などが生じるメカニズムを解説し、犯罪者のこころの深奥にせまる。

目次

第1章 事件
第2章 わが国における犯罪の現状
第3章 犯罪心理学の進展
第4章 新しい犯罪心理学
第5章 犯罪者のアセスメントと治療
第6章 犯罪者治療の実際
第7章 エビデンスに基づいた犯罪対策

内容について

・少年犯罪の凶悪化が進んでいる。
・日本の治安は悪化している。
・性犯罪の再犯率は高い。
・厳罰化は犯罪の抑制に効果がある。
・貧困や精神障害は犯罪の原因である。
・虐待をされた子どもは非行に走りやすい。
・薬物がやめられないのは、意志が弱いからだ。

これらの主張は、長い間、さしたる根拠もなくメディアで語られ、一般にも信じられていることですが、いずれも事実ではなく、いわば「犯罪心理学における神話」だと著者は指摘します。

犯罪心理学というと、テレビで頭の良さそうなオッサンが難しい面持ちで恐ろしくて興味深い「心の闇」のストーリーを解説するといったイメージがあります。本書の著者はその類のものは「似非犯罪心理学」と手厳しいです。

私たちには犯罪に対してひと際注目する習性があるようです。犯罪報道を、感情を揺さぶるエンターテイメントとしてエンジョイしています。メディアはそれに応えようと分かりやすくて面白い情報を編集します。

「通俗心理学」という言葉があるように、心理学はもともと胡散臭いものほど人気があるという厄介な傾向があります。また、フロイト主義などの精神分析の影響(呪縛)は特に日本においては未だ強固だと言われており、それは犯罪心理学においても同様のようです。

著者は現在の犯罪心理学について、このような主観的解釈や恣意的なこじつけとは異なり、データや先行研究の知見に基づいた科学的に裏付けられた知識であること、したがって犯罪の真の理解と効果的な犯罪対策に貢献できることを主張しています。


本書では特に犯罪のリスク要因と犯罪者の治療に関する科学的な研究動向について多くのページが割かれて、再犯予防に効果的な治療やサポートが必要だと訴えています。

治療に先立って適切なアセスメントを実施し、リスクやニーズを見極めた上で介入法の選択を行います。治療法で効果が期待できるのは認知行動療法です。日本で伝統的に盛んな精神分析心理療法ゲシュタルト療法などの人間学的心理療法の効果はエビデンスの支持がありません。

認知行動療法は端的にいうと、患者の思考パターンの歪みに注目し、これをより適応的なものに修正するトレーニングを行うもの。主に思考にアプローチし、最終的に気分や行動も変容させることを目的としています。一般の精神医療においても必要性を訴える声が大きいのですが日本では専門家が不足しているとされています。


一方、日本の刑事司法は厳罰化の方向に舵を切っています。厳罰化は再犯率を高める虞があるそうです。著者は刑罰による応報を否定しているわけではありませんが、しばしば感情論が先走りする傾向が見られることに対して懸念を表明し、効果的な犯罪抑止のためにエビデンスに基づいた意思決定、政策決定の必要性を訴えています。

「キャンベル共同計画」は犯罪に関する良質のエビデンスを提供しているデータベースを無料で提供しています。これは医療における「コクラン共同計画」をお手本として運用されているものです。日本語サイトも開設されています。

キャンベル共同計画

1990年代に「医療がエビデンスに基づいた医療」の名のもとでパラダイム転換を進めてきたように、グローバルな潮流として刑事司法や少年司法も行動科学:犯罪心理学の知見を取り入れていくことが展望されます。

雑感

とても読みやすい文章でした。ふだんあまり新書とか読まないからかなあ。

これまでも残忍とされる事件を解説した本を読んだことがあるのですが、必ずしも実体と言えないようなセンセーショナルな報道合戦や、ツイッターなどを通じたネガティブな直情反応の拡散(日常ストレスの発散みないなやつ)、それから世の中の不寛容なムードの高まり、厳罰化の風潮には、以前からなんとなくいやだなあと思っていました。

この本はあくまでも「さわり」の部分なのでしょうけれども、「なるほど」と思うこともいくつかあり、勉強になりました。