Les Rêveries du promeneur solitaire

大磯ロングタイム

先日、湘南の大磯に行った。
前回ここを訪れたのは20年以上も前、大学のゼミの先生のお葬式だった。
正確な時期は忘れてしまったが、自分は社会人3年目くらいの時だったと思う。
前日くらいに勤め先にゼミの大学院の先輩から電話があり、
お葬式を手伝ってほしいとのことで休暇を取って大磯の教会へ行った。
先生はカトリックの洗礼を受けていた。
たしか日本共産党の党員でもあった。
マルクス主義は唯物論なので矛盾しているのだが、まぁそんなものだ。
当日は忙しくて仏の顔は拝めなかった。
教会で仏はおかしいけどな。
先輩によるとすごく痩せていたと言っていた。ガンだったそうだ。
極細の外国の葉巻だか煙草だか妙なものをいつも吸っていた。

ゼミは人気がなくて、同期は自分も含めて二人だけだった。
はじめはもう一人いたのだが、栗本慎一郎(タレントとか政治家になる前の話)に心酔しているやつで趣味趣向が合わなかったみたいだ。すぐに辞めてしまった。
一つ上の学年のゼミ生はゼロ。皆無。
二つ上が三人で、そのうちの一人は大学院に進学していた。
修士のゼミ生はもう一人いて、合計二人。
この二人は学部のゼミもオブザーブしていたので、
学部のゼミは、自分たち学部生二人、修士二人と先生の五人だった。

同期のもう一人は、パンク・ニューウェイブが好きだった。
ニーチェとか坂口安吾も好きで多少影響を受けた。
ニーチェは、当時の現代思想、フランスのポストモダンの人たちの間でもブームだったからな。

その同期が学園祭の時、
インディーズのバンドのライブを開催するというので手伝いに行った。
正確には「駆り出された」。
仕事は単純な肉体労働だった。
ステージと観客の間は綱引きで使うようなロープで仕切られていて、
演奏中、猛烈なプレッシャーで押し寄せる観客に対し、
自分はロープの内側に対面で立ち、
そのロープを両手の全力で観客側に突っ張り返すことでブロックする、
という簡単なお仕事。
お客はよそから来た女子高生が中心。
衣装は黒いけれど派手だった。
ただ、トリを飾るバンドが地味だった。
女子高生がドン引きだったおかげで、
そこだけロープを離してまともに聴くことができた。
音楽雑誌フールズメイトの編集長、北村昌士のバンド。
衣装は黒くて地味だった。
音楽はプログレだった^^;
北村氏は、弦が5本あるベースギターに
これでもかとディストーションをかけて音を歪ませて
妙な暗黒の音を発していた。

夏休みの合宿は箱根のある民宿でやることに決まっていて、
その時には博士課程の人も一緒だった。
2、3人だけど。
その中に上海からの留学生もいた。
周さんという人でフランスにも留学経験があった。
本当は日本でビジネスの勉強をしたい、とこっそりと教えてくれたことがあった。
あの中に学者になった人は結局何人いたのだろうか。

就職活動の時期になると、大学院生から進学を勧められることもあった。
けれども先生は、大学院に行くならお金持ちじゃないとダメと言った。
共産主義者のくせに。
でも現実はそのとおりだったのだろう。たぶん。

先生は、大きな企業に行っても幸せになれないと言って、
ゼミのOBが働いているある企業を紹介され、そのOBにも何度かお会いした。
二つ上の先輩の一人は先生の推薦にしたがってその会社に就職していた。
大手電機のグループ企業だった。
でも最終的に、自分も同期もほかの会社に就職することになった。

つい最近、その会社の親会社が不祥事をからむ経営不振に陥り、
その会社を売りに出すという報道を見た。
液晶大手やファストフード大手もそうだけど、
たとえ盤石に見える会社でも来るときは一気に来るものなんだなあと思った。
あれから長い時間がたったけれど、
あの先輩は今頃どうしているのだろうと、
大磯に行ったこともあって、ふと思い出した。