時は金なり
72の法則
72の法則は、複利計算で倍加時間を簡易に推定する方法のこと。72を金利で割った数字が元本が2倍になる大凡の複利回数を示す。年複利なら、複利回数=年数となる。
たとえば、金利が年3%の場合、元本が2倍になる年数はだいたい24年(=72÷3)、年5%ならだいたい14年(72÷5)とか、そんな感じ。
複利は利子が元本に加算されてそれが次の利子を生む原資になるから、元利の価値は雪だるま式に増大していく。金利が3%の場合、1年後の元本は1.03倍(1+3%)となり、2年後にはそれの1.03倍(1+3%)^2、3年後にはさらにその1.03倍(1+3%)^3に増える。24年後の元本は約2.03倍(1+3%)^24。たしかに24年で2倍になった。5%の場合でも14年で1.98倍だ。(1+5%)^14=1.98.
なるほど。すばらしい。この法則は一説にはアインシュタインが発見したという(でも、たぶん誤情報)。
金利r(年複利)で運用した場合のn年後の元本は、(1+r)^n倍になる。元本が2倍になる年数を求めるというのは、(1+r)^n=2となる時のnを求めているということだ。
復讐のログ
ここで対数logの復習。
3^2=9
上の数式は「3の2乗は9である」。logを使って表すと、
log[2]8=3
となる。「2を底(テイ)とする8は3である」とか、たしかそんな感じ。同様に、log[2]16=4、log[3]27=3、log[4]16=2など。
さっきの72の法則にもどると、「元本が2倍になる年数を求めるというのは、(1+r)^n=2となる時のnを求めている」。つまり、「 (1+r)を低とする2はnである」。
n=log[1+r]2
だんだん滅入ってきた。しかし、今の時代、エクセルのlog関数を使えば簡単に計算ができる。
72の法則による計算結果とlog関数を使用した正確な計算結果とを比較してみた。表に示した金利6%から10%の範囲はけっこう正確だ。しかし、金利を100%まで上げると1年だけで倍になるのだから、金利が高くなるに従ってだんだん誤差はマイナス方向に開いていくはずだ。
無限に連続
反対に金利を低い方向に動かしても誤差はプラス方向に広がっていく。金利を極限までゼロに近づけていくと、2倍になるのに必要な期間は無限大になる。無限大なのだから、雪ダルマの回転数を年一回に制限するなんてセコイことはやめにして、常にゴロゴロと転がり落ちているとしよう。このように常時連続して複利計算が行われている時に、「72の法則」は、実際には「約69.3の法則」になることが分かっている。
それは、2の自然対数が0.69314718……だからである。Log[e]2、「ネイピア数e」を低とする2は0.69314718……。ああ、滅入ってくる。とにかく、自然対数的には「72の法則」ではなくて「69の法則」なのだ。過去の金利が高かった時代にたまたま72がしっくりきたのではないか。今やゼロとか場合によってマイナスだ。
ちなみに3の自然対数は約1.99なので3倍になる期間は「199の法則」、4は1.39で「139の法則」とかそんな感じになる。
対数が発見されたのは16世紀末頃、ネイピア数は17世紀末頃に発見されたらしい。アインシュタインの時代よりももっとずっと昔。
昔なら、ひたすら計算を繰り返すという職業があったみたいだけど、今の時代は自然対数はエクセルのln関数で簡単に計算できてしまう。倍加時間はさっきのlog関数を使ってもいいし、以下の式でも計算できる。
倍加時間=ln(2)÷ln(1+r)
ただし、r>0
2の自然対数を「1+金利」の自然対数で割った数字。割るだけで算出できるのはとっても便利。
このような対数を使って常時複利が行われているという仮定(連続複利)は金融の理屈ではわりとよく使われる考え方で、なんで使われるのかというと、実態がそうなっているというより、おそらく計算が便利だからではないかと思う。たぶん。
連続複利の収益率が正規分布に従うと仮定すれば、確率論的な計算もけっこう単純化できる。
おまけ1(ベース)
ちなみに日頃親しんでいる10進法の表記、一、十、百、千、万・・・は、10を底とする数字の捉え方のこと。
10^0=1
10^1=10
10^2=100
10^3=1000
10^4=10000
log(10)1=0
log(10)10=1
log(10)100=2
log(10)1000=3
log(10)10000=4
「底」は英語で「base」。底をわざわざ音読みしたりするより、素直に「ベース」と言った方が、滅入り具合が少なくて済むかも。