The Dark Side of the Moon(その2)
「裏側」という言葉はなんだかぞくぞくしますね。月の裏側には、キシリアの基地があるんですよね。ガンダム的に。
さて、またまたここで問題です。
4枚カード問題
「もしあるカードの表に偶数が書いてあるならば、そのカードの裏面にはアルファベットの母音が書いてある」といった前提が成り立っていることを確かめるには、上のどのカードをめくって調べる必要があるだろうか。
写真は、伊勢田哲治さんの著書「哲学思考トレーニング」(ちくま新書)から。問題自体はFAQみたいな頻出のものですので、ご存知の方も少なからずいるのではないでしょうか。4枚のカード全部めくって確かめればいいのですが、めくる枚数はできるだけ少なく。4枚ともカードの表には数字、裏にはアルファベットが書いてあります。
<答え合わせ>
答えは「2」と「T」の2枚です。
- 「2」を選ぶのは、裏に母音が書いてあるかどうかを確かめるため。
- 「T」を選ぶのは、裏に偶数が書いてないかどうかを確かめるため。
いかがでしたでしょうか。「2」と「A」を選んでしまうというのが頻度の高い間違いだとされています。
「2」はふつうに選ぶとして「[A]はどうでしょう。実は「A」の裏側が偶数だろうと奇数だろうと前提は覆ることはありません。前提は「偶数ならば母音」というものであって、「母音ならば偶数」というものではないからです。
もう一つ、「T」を選ぶのを忘れてしまいがちです。「T」の裏にもし偶数が書いてあったら、前提はひっくり返ってしまうのですが、この作業はしばしば見落とされてしまいがち。
人は一般に、ある主張に沿った事柄を確かめにいくのはとても得意なのですが、その主張を反証する証拠がないかどうかを確かめるのは苦手だといいます。これは確証バイアスという認知の偏りにつながっていて、先入観などから強い信念が形成されていく過程でこのバイアスがしばしば関与します。都合の悪い証拠は見えづらくなってしまう。
これは、ある種の自己欺瞞ではあるのですが、無意識のうちに自動的に実行される機能で、意識的に不都合なものを無視するというものではなく、目に入りづらいのです。眼球には映っているのに認識しづらい。認識できたとしても、たいした話じゃないような気がしてしまう。本人は大真面目だったりもします。なんだかバカみたいだけど、基本的にみんな同じです。残念ながら。
正常な人間の心理機能には同じような自己欺瞞システムがたくさん備わっています。長い長いサバイバルゲームの中で、それが適応的だったからだと思われます。でも、たまに盲点を突かれてしまいます。わざと盲点をつつこうとしてくるようなケースも、まぁ、あるにはあるし。
したがって、ある主張が正しいかどうかを判断する際には、正当な疑いをきちんと否定できるかどうか確認した方がいい、ということになります。その主張を支持するような証拠をたんまり掻き集めても、それだけでは足りないんです、と。「A」の裏でなく「T」の裏を見にいかないと。刑事事件だと、たとえばアリバイがあるのかどうかとか、当たり前のことですが、そんな感じ?
以前書いた記事
http://sillyreed.hatenablog.com/entry/2013/06/15/182944
合理性の素晴らしさの度合いは、その主張そのものがどの程度理路整然としているのか、というだけでは十分ではないだろう。その主張に対する合理的な疑いをどの程度排除できるのかというのも重要な要素だろう。
確証バイアスに関して以前こんなことを書いたことがありました。
http://sillyreed.hatenablog.com/entry/2013/05/26/155450
逆に、そもそも反証できないような主張(間違っていることを確かめる方法がないような主張)は、あやしい主張かもしれない、というのは科学哲学のカール・ポパーさんの考え方。
http://sillyreed.hatenablog.com/entry/2013/06/15/133121
- 作者: 伊勢田哲治
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2005/07/06
- メディア: 新書
- 購入: 9人 クリック: 104回
- この商品を含むブログ (119件) を見る
本日のBGM
裏!裏!ベッカンコー
(ちょっとネタに困っています)